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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)1465号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人春原源太郎上告趣意第一点について。

原判決が宇野芳男名義の始末書(記録一九丁)を証拠としていることは所論のとおりである。そして記録によれば、原審(差戻し後の原審)第一回公判期日において弁護人から右始末書の作成者宇野芳男の証人喚問を請求したこと。裁判所は右請求を採用の上受命判事をして法廷外(布施警察署)において喚問する旨決定を宣し、その取調べの日時場所を訴訟当事者に告知していること。そして右証人訊問は右決定並びに告知のとおり、昭和二六年三月一二日受命判事により施行されたこと。その訊問には被告人及び弁護人は何れも立会っていること。右訊問に当り受命判事は宇野証人に対して所論の始末書を読み開けて質問したのに対し、同証人は「お読み開けのとおり相違ない」旨を答えていること(記録二〇一丁)。次で被告人は受命判事の問に対し、右証人の証言については何等意見弁解はない旨を答えていること(記録二一〇丁)。そして右証人訊問調書は原審第二回公判廷において証拠調べされていること(そして、その際並びにその後においても、被告人も弁護人も右宇野証人の再喚問の申請はこれをしていない)、並びに右始末書は適法に公判廷で証拠調べされていること。以上はすべて本件記録により明らかなところである。

右の場合、右受命判事のした証人訊問の結果、即ち該証人訊問調書はこれを証拠に採用しても毫も違法でないことは所論も自認するとおりである。そこで右証人訊問において前示の如く受命判事は始末書を証人に読み聞け、これに対し証人はお読み聞けのとおり相違ない旨を答えた場合(即ち訊問調書に以上の記載がある場合)の如きは、その始末書は当該証人訊問調書の一内容を組成するものと解するを相当とするものである。しからば原審が右宇野証人の訊問調書と所論同証人名義の始末書とを共に証拠に挙示したのは、右の如く訊問調書の一内容として始末書をも挙示した趣意と解するを相当と認められるから刑訴応急措置法一二条の規定を前提とする所論並びに所論引用の判例は何れも本件この場合に適切のものではない。それ故論旨は採用することができない。

同第二点について。

所論岡山頼雄については、差戻し前の第二審において弁護人の申請により被告人出頭の同公判廷において証人として訊問している。この場合所論刑訴応急措置法一二条一項にいわゆる「公判期日」は右の如く差戻し前の第二審公判廷においてした訊問の場合をも含むものと解するを相当とするから(昭和二三年(れ)第一一六三号、同二五年六月二八日大法廷判決参照。判例集四巻六号一一一二頁)、論旨は理由がない。

同第三点について。

所論は憲法三一条違反をも云為するけれども、その実質は刑訴法上の問題たるに過ぎないから、刑訴四〇五条所定の適法な上告理由に当たらないばかりでなく、旧刑事訴訟法事件の控訴審及び上告審における審判の特例に関する規則(昭和二五年一二月二〇日最高裁判所規則三〇号、施行同二六年一月四日)八条により控訴審においても有罪の言渡しをするに当り「証拠の標目」を掲げることをもって足ることとなり、原判決は右規則施行後に右規則に従ってなされたものと認むべきであるから、原判決には何等所論の違法はないのである。

同第四点について。

所論も適法な上告理由に当たらない。のみならず本件は原審(差戻し後の原審)において「被告人に不服あり、証拠調べをした事件」であるから、所論規則(前点掲記の特例に関する規則)六条の適用のない事件である。したがって、原判決は同条にいう「・・・・・・認定した事実のとおり」とは判示せず、刑訴施行法二条旧刑訴四〇五条の規定の如く「・・・・・・之を引用する」と判示しているのであるから、原判決には何等所論の違法はない。

同第五点について。

原判示の趣旨は、第一審第一回公判調書記載の被告人の供述中原判決認定の事実(その認定事実は第一審判決摘示の事実を引用)と合致する供述記載の部分だけを証拠に採った趣旨であることは勿論である。それ故所論原判示は所論規則八条の「証拠の標目を掲げれば足りる」の法意に何等反するものではない。要するに本点所論も判決の証拠説明は如何なる程度をもって足るかという刑訴法上の問題であって、適法な上告理由に当たらないから採るを得ない。

同第六点について。

所論は、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。

以上のとおり、本件上告は理由がなく、また記録を精査しても本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由あるものとは認められない。

よって、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見によって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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